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広島家庭裁判所三次支部 昭和54年(少イ)1号 判決

被告人 Y1

Y2

右両名に対する各児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

被告人らはいずれも無罪。

理由

本件公訴事実は

被告人Y1、同Y2の両名は、共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、A子(昭和○年○月○日生)及びB子(昭和○年○月○日生)がそれぞれ満一八歳に満たない者であることを知りながら、

第一  被告人Y1が、右A子をして自己の性交の相手方をさせる目的で昭和五四年五月一日から同年五月九日までの間、家出中の同女を広島県三次市○○○町ホテル○○、千葉県船橋市○○×-××-×ホテル○○○○、静岡県御殿場市○○○××××-×××ホテル○△○△、滋賀県大津市○○○××-×ホテル○×○×などに宿泊させて自己の性行為の相手方をさせ、もつて児童の心身に有害な行為をさせる目的でこれを自己の支配下においた

第二  被告人Y2が右B子をして自己の性交の相手方をさせる目的で、右同期間、家出中の同女を右同ホテルなどに宿泊させて自己の性行為の相手方をさせもつて児童の心身に有害な行為をさせる目的でこれを自己の支配下においた

ものである。

というのであり、被告人Y1の当公判廷における供述、同Y2の当公判廷における供述、被告人Y1の司法警察員、司法巡査(但し、うち一通は抄本)及び検察官に対する各供述調書、同Y2の司法警察員、司法巡査及び検察官に対する各供述調書、証人A子の当公判廷における証言、証人B子の当公判廷における証言、A子及びB子に対する各身上調査回答書ならびにC及びD子の司法警察員に対する各供述調書によれば、次の事実を認めることができる。

被告人Y1(以下単にY1という)及び被告人Y2(以下単にY2という)は、昭和五四年五月一日から同月九日までの間、家出中の少女であるA子、同B子とともに、広島県三次市○○○町ホテル○○、千葉県船橋市内所在ホテル○○○○、静岡県御殿場市○○○××××-×××ホテル○△○△、滋貿県大津市○○○××-××ホテル○×○×外一か所のホテルに宿泊し、いずれのホテルにおいても、Y1とA子、Y2とB子の男女二組に別れて各一室に宿泊し、Y1とA子はいずれのホテルにおいても性交し、Y2とB子はホテル○△○△及びホテル○×○×において性交した。A子は昭和○年○月○日生、B子は昭和○年○月○日生で、いずれも当時十六歳であり、Y1及びY2はその事実を認識していた。

ところで、本件において、検察官は、Y1がA子と、Y2がB子とそれぞれ性交することが、児童であるA子及びB子の心身に有害な影響を与える行為であると主張するものであるが、その態様が強姦、乱交、異常性交などの如く、誰がみても児童の心身に有害な影響を与えるものと認められる場合は別として、本件の如く一六歳に達した児童が、密室において一対一で行う性交については、民法七三一条、刑法一七七条等の法意に照らし、行為の外形上当然に児童の心身に有害な影響を与える行為であると断定することはできない反面、行為の性質上、性交に関する十分な思慮と自由意思に基づくことを要するものであるから、外形上当然に児童の心身に有害な影響を与える行為ではないと断定することもまたできないものと考える。結局は、児童とその相手方である成年者との従前からの関係、成年者の意図、成年者の児童に対する支配力の程度等との相関関係において、児童の心身に有害な影響を与える行為に該当するか否かを考えるべきである。そこで、本件において、本件に至る経緯及び本件時の被告人らの児童らに対する行動を検討するに、前掲各証拠によれば、以下の事実が認められる。

Y1とA子とは、昭和五二年春ごろ、Y1とA子の姉とが交際していたことから知り合い、同年九月ころから肉体関係をもつようになり、以後、双方の親の反対を受けたにもかかわらず、親の目を盗んでは、Y1の居宅、A子の居宅、ホテル等で肉体関係を続け、二人で数回家出したこともある。そのうち、昭和五三年二月から同年四月までの約一か月半の間、Y1、A子及び当時A子と中学の同級生であつたB子の三人で家出し、広島市郊外のY1の友人宅において、右友人を含めた四人で同棲していたこともある。昭和五四年四月、A子は広島県双三郡○○町所在の県立○○○高校へ入学し、自宅から三次駅までは自転車、三次駅から○○町までは汽車で通学することとなつたが、親の目を盗んでY1と会うために、Y1と相談のうえ、両者は三次駅で待ち合わせ、同駅から学校までの間はY1が自己の所有する乗用車で送り迎えしていた。同月一八日朝、Y1が運転する乗用車で通学途中のA子が「学校を休む」と言つたためY1もこれに賛成して、A子は当日学校を休むこととし、A子の発案により、Y1がA子の父親と称して学校にニヤ電話をしたうえで尾道市方面にドライブをし、同市内のホテルで性交をした後、再び車で三次市に帰つて来た。A子は、下車する際Y1から「もし学校をサボつたことがバレていたら、○×○にいるから来い」と言われていたところ、帰宅してみると、学校を休んだことがすでに同女の親に発覚していたため直ちに家出して、○×○でパチンコ遊びをしていたY1の許に走つた。そこで、同月九日Y1がA子の父親に暴行を加えた事件でA子の父親がY1を告訴した旨A子から知らされていたことから、Y1とA子は共に家出することに決め、Y1の友人で右○×○パチンコ店の店員であつたY2のアパートに同宿することとなつた。それ以後、A子は父親から逃れるため、Y1は警察等の追及から逃れるためもあつて毎日ほとんどアパートにこもりきりの生活であり、Y2が勤務で留守の間は、テレビを見、昼寝をしたり、性交したりの毎日であつた。また、Y1、A子ともに所持金がなかつたため、Y2が買い与えてくれるインスタントラーメン等の食料品を食べて生活した。同日二〇日過ぎころ、A子が「もう一人女の子がいれば二組できる」と発案したことから、Y1とA子が、二人連れで独身者のY2の世話になつている負い目もあつて、かつて共に家出をしたことのあるB子をY2に紹介することになり、Y2も同女を気に入れば親密な関係になつてもよいと考えて、同月二四日にはY1、A子、Y2が、同月二九日にはY1、A子が、当時広島市○○町の美容院に美容師見習として住み込んでいたB子の許を訪れ、A子がB子に対して家出してY2のアパートに来るよう誘い、B子は同月二九日には家出することを決意してA子に対して貯金額二万五〇〇〇円くらいの貯金通帳一通を預け、翌三〇日、現金約五万円を持ち家出してY2のアパートに入つた。ところが、これより先、Y2のアパートにY1とA子が同居していることについて、同月二二日ころY2がアパートの管理人から抗議を受け、さらに同月二八日には警察官がY1とA子と思われる若い男女を探してアパートを訪れたことを聞くに及んで、右アパートに居住することの危険を感じ、Y2までを含めて、早急に右アパートを引き払うこととし、そのためにもB子の家出を急がせることにY1、A子、Y2の間では合意ができていたものの、B子がアパートに来たことをめぐつて同月三〇日深夜、Y2がアパートの管理人と激しく口論したため急きよ、直ちに右アパートを出ることとなり、Y1、A子、Y2、B子の四人は、翌五月一日午前零時ころ、ホテル○○を訪れ、Y1とA子及びY2とB子の二組に別れて各一室に宿泊し、Y1とA子は性交した。Y2とB子は互いに身の上話等をしたが、B子が性交することを希望しなかつたため性交しなかつた。同日朝、四人は今後の方策について相談した結果、A子とB子が東京へ行つたことがないので東京へ行くことを希望したことと、東京へ行けばY2が同人の弟から借金できる(Y2も所持金がなかつた)こと等の理由によつてとりあえず東京へ行くこととなり、Y2が運転する乗用車に四人が乗つて三次市を出発し、途中福山市内の郵便局でB子が貯金二万四、〇〇〇円を引き出し、五月二日朝東京に到着した。そして、船橋市内に居住するY2の弟から借金するために船橋市に向かい、借金をした後、千葉方面をドライブするなどして遊び「五月三日午前一時ころ、たまたま見つけたホテル○○○○に宿泊した。同ホテルでも、Y1とA子は性交したが、Y2とB子は性交しなかつた。五月三日は東京、船橋市内などで遊び、自動車の中で寝た。五月四日、Y2は再び弟らから借金しA子とB子の衣類を買い、房総半島で遊んだ後、箱根へ向う途中翌田空港付近でたまたま見つけたホテル(名称不明)に宿泊し、ここでもY1とA子は性交したが、Y2とB子は性交しなかつた。この日、A子とB子がシンナーを吸うことを強く希望し、Y2が反対したがシンナーを買い求め、Y2を除く三人が車内等で吸つた。五月五日は箱根をドライブして遊び、自動車の中で寝た。五月六日は富士山、○○○ランドなどで遊んだ後、ホテルを探して車を走らせるうちホテル○△○△を見つけて宿泊し、同所ではY1とA子及びY2とB子の二組いずれも性交した。五月七日は静岡市内で遊び、自動車内で寝た。五月八日、大阪に居住するY2の知人から借金すべく大阪方面に向つたが、午後一〇時ころ大津市に到着したので、道路沿いにあつたホテル○×○×に宿泊し、Y1とA子及びY2とB子の二組いずれも性交した。五月九日は大阪に行き、Y2の知人から借金したが、所持金が少なくなつたため四人で相談した結果、東京で働いて四人で暮すことになり、東京方面に引き返す途中大津市内で警察官に保護された。三次市を出発して大津市で保護されるまでの間、四人の日々の行動については計画的なものはほとんどなく、重要な事項については、その都度四人で相談して決め、特定のリーダー的な者はいなかつた。なお、ホテルや些細な行先の選定にあたつてY1やY2が決めた場合もあるようであるが、こちらも発案者の意見に異議を唱える者がいなかつたというにすぎず、発案者はリーダーシップあるいは支給権があつたとまで考えることはできない。また、自動車内では四人は陽気に冗談を言いあい、音楽を聴いてはしやぎ、Y1とA子はY2とB子の前で接吻するなどして、楽しく旅行していた。さらに、この間の金銭は全てB子が管理し、Y2が調達して来た金銭もB子に全部渡し、支払はすべてB子が担当したが、これは誰かの指示、希望によるものでもなく、また相談によるものでもない。また、ホテル○△○△に泊るより前、Y2がB子に対して「Y1が女達をトルコに売ると言つている」旨教え、B子はこれをA子に知らせたが、A子、B子ともにこれを聞いてもY1、Y2から逃げようとは考えなかつたし、また逃げるための行動さえとろうとしなかつた。なお、Y1が本当に右発言をしたか否かは明らかではない。

以上認定の経緯に照らして考えるならばA子及びB子は、本件時における一連の行動に対して、自由意思をもつて積極的に加功しているものと認められ同女らはY1及びY2に対して、全く対等の立場にあつたものというべく、支配、従属関係あるいは支配可能な関係にあつたものとは到底考えることはできない。また、A子及びB子はY1あるいはY2との性交に関して十分な思慮と自由意思を有していたものと認められる。さらに、Y1及びY2がA子とB子を支配下において性交の相手方をさせ、同女らをもてあそぶ意図があつたものとも認めることはできない。なお、Y1及びY2の捜査官に対する各供述調書によれば、同人らの日常生活はすべて性交のみを目的としており、性交はすべて女性をもてあそぶことのみを目指しているかの如き記載が見られるが、これらは、被告人らの行為を何が何でも児童福祉法二四条一項九号に当てはめようとした捜査官の意図が明白に看取され、いかにも不自然な内容であつて、とうてい信用することはできない。

そして、一六歳の女子児童が、完全に自由な意思に基づいて、相手の男性と全く対等な立場で行う性交は、それが正常なものである限り、心身に有害な影響を与える行為にあたるということはできず、本件ではY1とA子及びY2とB子との間の性交が正常なものでないとの主張、立証はないから、本件での各性交が心身に有害な影響を与える行為に該当することの証明がないことに帰する。

結局、本件においては、Y1及びY2の各行為は、その道徳的評価はともかくとして、法的には、児童福祉法三四条一項九号所定の「児童の心身に有害な影響を与える行為」及び「支配下においた」のいずれにも該当するとは認められず、本件公訴事実は犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条により被告人両名に対し無罪の言渡をする。

(公判出席検察官 宮原丹)

(裁判官 山森茂生)

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